眠れぬ王子の恋する場所


「まぁ、普通の男のひとり暮らしなら危ないかもな。でも久遠は女に不自由してねーし、強引に襲い掛かるようなヤツでもないから」

……襲いかかられましたけど。
とは言わずに、眉を寄せた。

たしかに強引ではなかったし、久遠さんを責めるつもりはない。
ただ、あんなあっさり関係を持った自分自身が不思議なだけで。

私って案外、ビッチだったんだろうか……とげんなりしながら椅子を引き出し、座った。

でも……考えてみれば、付き合ってもいない人としちゃったのなんて、初めてだ。

「そもそも、女にもそんな興味なさそうだしな。たぶん、全裸の女が誘ってきても表情ひとつ変えずに断る」
「え……どんなにスタイルよくてもですか?」
「ああ。モカちゃんでも無理だな」

〝モカちゃん〟っていうのは、最近グラビアで人気のある子だ。

社長がすごく気に入っていて、『見ろ、この魅惑のくびれ具合』だとか『Eカップとか、男の夢だよなー』とか気持ち悪い独り言を言うから私も覚えてしまった。

「……それはさすがにないんじゃないですか?」

Eカップの美女が裸で誘ってきてるのに断るなんて考えられない。

久遠さんは確かに淡泊そうに見えるけど、実際は……そうでもなかったし。
だから首を傾げると、社長は煙草に火をつけながら「興味はあっても警戒心が強いヤツだからな」と言う。

「警戒心……でも、身分を考えれば仕方なさそうですよね」

お金を目当てで近づいてくる人だっているだろうし。



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