眠れぬ王子の恋する場所


「傷つくのが怖いなんて、当たり前じゃないですか……」

グッと顔を上げ目を合わせると、涙で揺れる視界でも、久遠さんの瞳に驚きが広がったのがわかった。

「怖くて当たり前じゃないですか……っ! 私が真剣に想っていた間、相手は私のことなんかこれっぽっちも想ってなかったんです! 
もし、お金盗ったのが彼だって確定しちゃったら、私は彼にとってお金とってもなんとも思われない存在でしかないってことでしょ……?」

お金じゃなくたって、なにかを盗んだりしたら、その相手との関係はもう終わる。

それを分かっていて、その上で私のお金を盗んだのなら、元彼にとって私は切り捨てていい存在だったってことだ。

お金を貸して欲しいって言われてから、私は付き合い方をどこかで間違えてしまったんだと思って、どうにか元に戻れないかなって……修復できないかなって考えていたのに。

なにが彼をそうしてしまったんだろうって、一緒に考えたいって思ってたのに。

その間、元彼は私の悪い噂を言いふらしていた。

その頃にはもう、元彼にとってはどうでもいい存在にまで落ちていたんだ……と思うと、大粒の涙がこぼれた。

元彼に想われていなかったのが悲しいからじゃない。ただ……自分が情けなくて。

目を伏せ、手の甲でぐいっと涙を拭く。

こんな風に人前で泣いちゃうなんて最悪だ。
あとで絶対後悔するだろうなぁ……と、じょじょに冷静になってきた頭で考えた。

「とにかく、そんな相手と今さら顔合わせたりしたって、ただ惨めな現実突きつけられるだけですから。久遠さんの言うように、もう、傷つきたくないんです」

ずっと鼻をすすって言う。
泣いたのなんてほんの数分なのに目の周りが熱を持っていて嫌だった。


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