眠れぬ王子の恋する場所
「でも、もうしばらくは誰も信用しないって心に決める程度にはトラウマになりましたけどね」
わざと冗談みたいに言った私をじっと見た久遠さんが、少ししてから「金は奪い返さないのか?」と聞くから、静かに首を振った。
「彼が犯人だって決まったわけじゃないですし」
「そんなもん、確認すればいいだろ」
「別に……そこまでする必要も……」
「ふーん。そうやって今までずっと逃げてきたわけか」
すぐに返ってきた言葉に、ぴくっと無意識に肩が揺れる。
こんなのは久遠さんのいつもの悪態で、いつもだったら私も同じように毒々しい言葉で言い返したりしてきたのに……。
耳から入り込んだ言葉が、胸の奥深くに隠しておいたなにかに触れた気がした。
ぴりっと身体の中に走った痛みに、心臓が反応する。
ドクドクと速度を上げた心臓が、隠してあった感情を身体中に巡らせるようで……。
元彼とのいい思い出と悪い思い出が、一気にフラッシュバックする。
一気に……引き戻される。
まるで、海の底にでも引きずり込まれたみたいに呼吸が苦しくなり、喉のあたりに自然と手を当てていた。
はぁ……と吐いた息が震える。
「向き合って傷つくのが怖いから、〝今さら〟って片付けてるんだろ」
そういえば私、別れてから泣いてない、とふと気づく。
それはなんで……? 一方的に悪い噂を立てられて職もなくして……その上泣いたりしたら自分が惨めに思えて仕方なかったから?
それとも、この期に及んでまだ元彼を信じてたから? 信じたいなんて、思ってしまっていたから?
そう気付いたらもう、ダメだった。
言葉が心の奥底から溢れ出てくる。