エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 脇のほうに停めてあったものは、かろうじて無事だったみたいだけれど、私のオレンジ色をした自転車は、タイヤに押しつぶされて原型をとどめていなかった。

「うそ……」

 無残に変わり果てた自分の自転車を見て、思いっきり脱力する。
 3年間苦楽を共にしてきた相棒なのに。


(そういえば二階堂さんのは!?)

 隣に停めてあったはずの赤いマウンテンバイクもまた、トラックにはじき飛ばされて横倒しになっていた。
 やはり無事ではなかったらしく、フレームが歪んでいる。


 幸いにもけが人はなかったようなので、その点だけは不幸中の幸いだ。
 お昼休みで外に出ていた社員も多い。
 人の列にトラックが突っ込んだとなれば、これこそ一大事である。


「修理代はあっちで出してくれるみたいだから、必ず領収書をもらってきてください」

 ビルの管理人が周りに向かって説明した。

『修理代』ってことは、修理しろということだろうか。
 でも、私の自転車は修理できる段階を超えている。
 買い替える場合も弁償してくれるのだろうか。

 たしか物損事故の賠償金は、減価償却、つまり長年使っているとその分減らされるはずだ。
 この自転車は3年も使っているわけだから、弁償されたとしても、新しい自転車が買えるほどの金額はもらえないだろう。

 そんなことまで細かく考えてしまう自分が情けない。
 けれど、都会のひとり暮らしは、けっこうシビアなのだ。
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