エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 長くてきれいな指先が、目の前に見えた。
 どうやら誰かが、私の両脇に手をついて、周りの乗客から守ってくれているらしい。

 肘までまくり上げられたシャツから伸びている、程よく筋肉がついた腕。
 手首には、王冠マークのついたシルバーの腕時計がはめられていた。
 スタイリッシュなデザインのロレックスの時計は、どこかで見た記憶がある。

 手の大きさから、背後にいるのは男の人だろうと思う。
 けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
 できるだけ触れないように、気を遣っているのがわかるからだ。

 しばらくすると、電車が建物の陰を通り、一瞬だけ車内の様子が窓ガラスに映し出された。
 守ってくれている人物の顔を見て、驚愕した。

 まわりの乗客から頭ひとつ飛び出るほどの長身、そして、暑いなかでも涼しげな目もと。

(――二階堂さん!!)

 私の視線に気が付いたのか、二階堂さんはガラス越しに笑顔を向けてきた。

(ど、どうしよう……なんか緊張しちゃう)

 会社を出るときにデオドラントスプレーはしてきたけれど、ひとつにまとめてある髪は、人ごみに揉まれてぐしゃぐしゃに乱れていた。
< 20 / 80 >

この作品をシェア

pagetop