エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 自転車が壊れてしまったので、帰りは電車に乗らなくてはならなかった。

 ホームで電車を待ちながら、キョロキョロとあたりを見渡す。
 朝のラッシュ時に比べたら乗客は少なそうだが、なんだか落ち着かない。
 やっぱり電車は苦手だ。
 それに、どこからか汗臭い、不快なにおいが漂ってくる。

 あの混雑がいやでわざわざ自転車通勤にしていたというのに、運命の神様はときどきとんでもない意地悪をする。

 最寄り駅まで18分。
 自転車で通勤するのに比べたら、かかる時間はものすごく短い。
 けれどその18分が、この世の終わりと思えるほど自分にとって苦痛になることは確実だった。


 電車に乗ると、突然団体客がやってきた。
 なにかイベントがあったらしく、大きな荷物を持っていて、やたらと場所をとる。
 しかも、ほかの乗客のことなどお構いなしで騒ぎはじめた。

 私はそのまま、ギュウッと奥まで押しやられてしまった。

(サマータイムで、早いはずなのに……)

 居残りをしていた自分が悪いのだが、後悔先に立たず。
 すぐそばから、ツンと汗臭いにおいがして、ますます具合が悪くなる。

 ガタン、と電車が走り出した振動で、おじさんが私にぶつかってきた。

(もうイヤ!)

 家まで果たして耐えられるだろうか。
 そんな不安に襲われたとき、ふ、と体が楽になった。
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