エリート御曹司が過保護すぎるんです。
 しばらくすると、彼はふたたび自分の席を離れ、事務のカウンターのすぐ横にやってきた。
 ウォーターサーバーの水をステンレスのボトルに入れ、ごくごくと美味しそうに一気飲みする。

 そして私のほうに向きなおり、極上の笑顔を向けた。

「和宮さんも自転車通勤だったんですね」
「へ?」
「あ、やっぱり、さっきの僕だって気付いてなかったでしょう」

 さっきのって……あの自転車の?

「だ、だって、さっきTシャツ着ていませんでした? 汗びっしょりだったし……」

「いつも自転車通勤で汗だくになるんで、会社に着いてからシャワーを浴びて着替えているんですよ」

 だからさっきの姿から変身しているのか。
 ちゃんとシャワーまで浴びるなんて、さすがは営業社員。

 へぇぇ、と感嘆の声を漏らすと、 二階堂さんは目を細めてくすくす笑った。


「入社して4年目ですけど、会社にシャワー室があるなんて知りませんでした」

「男子更衣室だけにあるみたいですよ。っていうか、あなたの突っ込むところはそこなんですね」

 二階堂さんはそう言うと、さらに目を細める。

 厳しい営業の仕事をしているのに、この人は物腰がやわらかい。
 そして、なんといっても笑顔がステキ。


 ちょっとだけ見惚れていると、二階堂さんが「ん?」と首をかしげて私の顔を覗きこんだ。

 いけないいけない。
 こんなゆるんだ顔をしていたら、変に思われてしまう。
< 8 / 80 >

この作品をシェア

pagetop