EGOIST
なんて乱暴な考えだ。
そう思いつつ、どこか納得してしまう。
言われてみれば確かにそうだと思えてしまう。
そうするとなんだかそれまであれこれ考えていた自分が馬鹿らしくなって、笑えてきた。

笑ったのは、酷く久しぶりの事のように思える。

「あ、姉さん、ダンテ」

ここにいた、と声がかかる。

そちらに視線を向けると、そこにいたのはよく見知った少年。
右目は茶色だが、左目は今しがたこちらを見ていた双眸と同じ色をしている。

「お茶にしようって母さんが」

その言葉に目の前の小さな頭がこっくりと頷いた。

それを確認した少年は、自分は他の人に声をかけてくるからとその場を後にした。

「いきましょう」

再び灰色がこちらを向く。
小さな手が立つように促している。

それに従い立ち上がれば、握られた手はそのままに歩き出す。
その手を振り払う気にはなれなかった。
何度、この手に、灰色の瞳に、言葉に救われたか分からない。

あぁ、大切なもののために正しくあることは絶対に正しいというのなら、たとえ何があっても、この温もりのために正しくあることだけは絶対にやめずにいよう。
そう静かに誓った。

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