好きですか? いいえ・・・。





そうと決まったら、善は急げだ。



私が顔を洗ったり、歯を磨いたり、着替えたりするのを待って、落合くんは私の枕元でギターのコードを言って、それを弾いて見せた。私は、コードの名前と指の位置を枕元で頭の中で叩き込んだ。



時々、落合くんはギターを傍に置いて、私の体調を気にかけてくれた。でも、私は気にせず続けてもらうように頼んだ。落合くんは渋々折れてくれて、コードを覚える作業は夕方まで続いた。



お母さんが帰って来て、私の部屋を覗き込む頃には、大体のコードを覚えていた。そこで、初めて私が風邪を引いていることをお母さんが知った。



「頑張るのはいいけど、無理はしないようにね。明日までに治さないと、学校にも行けないんだから。」



お母さんは私の額に手を乗せて、熱がどれくらいあるか確かめて、私の額をピシャンッと叩いた。



「で、今日の夕飯はすき焼きにしようかなって思ってるんだけど、十志子は食べられそうにないから、お母さんと落合くんで食べちゃおっか!」



「あ、ずるいー! 私も食べるー!」



「ダメ。あんたはおかゆ。」



「……ケチ。」



「ケチで結構。コケコッコー。落合くん、ちょっと手伝ってくれる?」



そう言って、私を一人にして二人はキッチンに向かった。ドアを隔てて二人の楽しそうな会話が聞こえてくる枕元で私は、起き上がって、落合くんのアコースティックギターを持った。そして、さっき習ったばかりのコードを指で押さえながらジャーンッと弾いてみた。バカみたいに弾いていたEm以外、なかなかいい音が鳴らない。



「おーっ、痛い……。」



指の腹が痛くて思わず指を吸った。鉄の味、血の味がした。吸った後の指を見ると、横に一筋の線の痕が付いていた。これが努力の証か……。この指を見ていると、もっと頑張れるような気がする。




< 139 / 204 >

この作品をシェア

pagetop