好きですか? いいえ・・・。





確かに戻れるものなら戻りたい。でも、戻るのが怖いって気持ちもある。



戻ることによって、クラスメイトがどんな反応をするのか怖い。友達だった人たちが今まで通り接してくれるか怖い。「スナノトリガー」のライブで車椅子に乗った私を好奇の目で見られたこと。あの目がトラウマで、忘れられない。



「私、やっぱり大丈夫。ここで充分。」



そう言って、私は再び数学の問題を解き始めた。でも、ちっとも集中できない。山辺先生は何も言わず、コーヒーを啜った。落合くんはベッドから降りて、私の隣に座った。



「怖いの?」



落合くんのその言葉で、私はシャーペンの芯を折ってしまった。動揺が隠せない。手が震える。



「財満……さん?」



「ごめん……ホントはちょっと怖いんだよね……。」



私は正直に打ち明けた。スナノのライブ終わりの好奇の目のこと、学食で何も言わずに道を開けてくれること、今更教室に戻った時にクラスメイトがどういう反応をするか怖いこと……。



「まあ、無理もないよな……。それだけ長く教室に行ってないし。でも、財満さんは事故に遭いたくて遭ったわけじゃないじゃん? 車椅子に乗りたくて乗ってるわけじゃないじゃん? なんで財満さんの方が遠慮しなきゃいけない世の中なわけ? オレ、そこにギャップを感じるんだよな……。」



「しょうがないよ。そういう世の中なんだもん。でも、こうやって落合くんみたいに本当に優しい人がいるってことに気づけたのはよかったなって思うよ? 車椅子になって唯一よかったことかなって。」



これは落合くんを慰めるための言葉じゃない、本心だった。車椅子になって、視野が低くなったことで、自分の足で立って見ていた時には気づけなかったことに気づけるようになった。これは、私の人生にとっての大きな財産になると思う。




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