好きですか? いいえ・・・。





私の家に近づくに連れて、ふと疑問に思ったことがあった。落合くんは一体どこに住んでいるんだろう。



まさか遠回りをしてくれているのだろうか……。そうだとしたら、本当に悪いなって思う。そもそも私が車椅子なんかに乗るようなことにならなければ、落合くんは今日という日を無駄にしなくて済んだ。私は落合くんの一生でたった一度しか訪れない大切な今という時間を奪ってしまっているのだ。



なんであの時、あの場所で、あのトラックが突っ込んできたのだろう。なんであの時、いつもと同じ帰り道を使わなかったのだろう。なんで横断歩道を使わなかったんだろう。なんでちゃんと左右を確認して道路を渡らなかったんだろう。



後悔が荒波のように、次から次へと押し寄せてくる。自分の脚で立つことができない私の身体はあっという間に流され、さらわれ、岸に戻ることはできなくなる。岸には私の思い描いていた夢とか、恋とか、仲の良かった友達とか、そういうものが手を振っている。水は冷たく、鉛のように重い身体はどんどん沈んでいく。沈まないように、沈まないように必死に残された両手でもがく。潮水が口の中に入ってきて、しょっぱい。苦しい。



そこに一隻のボートがやってきて、私の身体を抱えて、荒波から救ってくれたのが落合くんだ。もしも、この先こうやって落合くんと一緒にボートに乗って、対岸まで運んでくれたら、どんなにいいだろうって思う。きっと対岸には、さっき別れを告げたものなんかよりもずっといい夢とか、恋とか、仲の良い友達とか、そういうものが手を振っているはずだ。この手を振る仕草の意図は、グッバイの方じゃなくて、ウェルカムの方。



でも、そんないい人だからこそ、幸せになってもらいたい。私なんかに時間を割いてないで、もっと有意義な時間を過ごして欲しい。




< 17 / 204 >

この作品をシェア

pagetop