好きですか? いいえ・・・。





この学食戦争の戦場に私は立っている。いつもは山辺先生が買って来てくれるものを食べていたけど、車椅子になる以前は、ここで勇敢に戦い、時には勝利の雄たけびを上げ、時には負傷して、午後からの授業を空腹で過ごした。



久しぶりの戦場復帰だ。



それにしても、この車椅子。まるで戦車みたいで、以前よりも強くなった気がする。前に進む度に、周りが少しずつだけど道を開けてくれる。そこのけそこのけ十志子が通るってな風に。快感。私の前では周りはただの歩兵に過ぎない。



あっという間に食券売り場まで辿り着いた。実は食べたかったんだ、カツカレー。私は大のカツカレー好きで、学食に来ると、毎回カツカレーを狙う。でも、人気食券、カツカレーは、授業が終わった瞬間にダッシュしても売り切れていることがある。



そういう時は、辛うじてカレーの食券を手に入れて、それからカツサンドを手に入れ、そのカツサンドのカツをカレーに入れるなんてこともした。バンズの部分は捨てずに、食べ終わった後の満腹感の中、中庭で千切ってハトに撒いてやる。



でも今日は、そんなみみっちいことはしなくていい。カツカレーの食券はあっという間に手に入った。手に入ったとなると、後は席の確保だけど、必要ない。



私は食券を出して、カツカレーができるのを待っているこの瞬間でさえ、椅子に座っている。可動式の椅子、車椅子に。席を確保する必要がないのだ。カツカレーの乗ったお盆を車椅子の両側にある肘掛けに乗せれば、安定する。動きながら食べることだってできる。



私は十志子無双。我に敵なし。死にたいヤツはかかってくればいい。



「あの車椅子の人、スゲーな。」



「ホント。遅れて来たのにカツカレー手に入れるなんて……。」



周りの動揺が、気持ちいい。こんなことに車椅子を利用するなんてどうかと思うけど、そんなこと言ったら顔がいいだけでアイドルになれるのと何ら変わりない。



不便がある分、便利なことだってあっていいはずだ。私は負け組じゃない。みんなと同じ人間で、人間らしくカツカレーをゲットしたに過ぎない。




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