はやく気づけ、バカ。




ーー「桐谷のことオッケーしない理由って、なんかあるの?ほかに。」


何のとりえもなくて、対して可愛くも美人でもない私にはもったいなすぎる桐谷くん。

彼が私にアタックしてるって聞いたら、みんながみんな”どうして彼をオッケーしないの?”って聞きたくなるのもわかる。
だって、それくらい桐谷くんは魅力的な人。

私が桐谷くんと付き合わない理由...。



ーー「え、なんで?甘利ちゃん桐谷くんじゃ満足できないとか...?」


そんなわけがないのに。そんな答えのわけがない。

暗くてよく見えない天井を両の目で見つめて、そう頭の中で長野さんの言葉をもう一度否定する。

あの時。長野さんに聞かれた時、咄嗟に「今まで後輩として見てたから急には考えられない。」だとか適当なことを言っておけばよかった。

と思う反面桐谷くんに対してそんな不誠実な答えを出してもいいのか、とも思う。

自分のためのウソと桐谷くんに対する誠実さ。
今、こうやって考えて天秤にかける。--答えは一緒だった。だから、きっとこれでよかったんだと思う。


『どうして私は桐谷くんと付き合わないのか』
ーーそれは、きっと私と彼だけが知っている答えだ。

(...なんてね。)
心の中で、自分自身にジョークを言ってみた。
おもしろくも何ともないや、と思うと不意に時刻が気になった。




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