先輩、一億円で私と付き合って下さい!

 6月も中旬に入り、雨の季節が深まるある放課後、俺はノゾミと例の屋上に来ていた。

 何も雨の日に屋上にこなくてもいいものを、ノゾミが高い所から、雨を見てみたいと言ったのがきっかけで、俺たちは傘を差して屋上に立っていた。

 ノゾミがいうには、広く雨を見渡せるのも面白いのだそうだ。

「雨って、どこからどこまで降っていて、その境目はどうなってるんでしょう」
「はっ?」

 正直俺はそんな事考えた事もなかった。
 目の前に広がる景色は、どんよりとした灰色の空がどこまでも続き、街並みが煙たく霞んで見える。

 雨雲があるから雨をもたらす。
 街はいまその雨雲に広い範囲で覆われているという事だ。

 雨雲の大きさにも限度があるから、必ず端の部分が存在する。

 ノゾミはその降っているところと、降ってないところの境目はどのように見えるのか見てみたいのだろう。

「シャワーと同じだろう。シャワーヘッドの水が出る部分を雲として考えたら想像つくんじゃないか」
「それを実際に見られたら面白いでしょうね」

 そういうものなんだろうか。
 俺はこの雨が鬱陶しくて、早く梅雨が終わって欲しいと願うだけだ。

 どんよりとしてじめついた天気は気分を重くするようで、今週の土曜の夜の父親との初めての顔合わせもどんどんと深刻化していき、会う事に怖気つく。

 俺には一切の非はないというのに、どこかで十字架を背負わされた罪深き行為に感じてしまう。

 小さいころから母親に刷り込まれた父親の負の要因。
 すぐには割り切れそうもない。
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