先輩、一億円で私と付き合って下さい!
「今日は遅番なの?」
 俺が仕事の事を聞くと、母は頷いた。

 俺はぬるいお茶をすすり、虚空に視線を漂わせながらセイの事を話した。
 母はびっくりしてたが、やがてそれは溜息に変わり、落胆したようにうなだれた。

 俺がずっと異母兄弟と会っていたことや、知らなかったとはいえ、勉強を手伝っていたことは受け流せても、セイの名前が『青一』だというところが気に入らないと強く憤りだした。

「広崎にとったら二人目の息子の癖に。何が『一』よ。そこは『二』でしょ」

 どこかで憎しみが燻っていて、自分の息子が蔑(ないがし)ろにされたように受け取った。
 そういう細かい事を一番気にするところに、俺は「プッ」と噴出した。

 俺も同じところに腹を立てたからだ。
 やっぱり親子だ。

 俺が笑った事で空気が変わった。

「そんな事を気にしても仕方がないわよね。私はすでに離婚して広崎とは関係ないんだから。やっぱり嶺はあんなところに行かなくていい。自分の好きな道を進んで欲しい。あなたの好きなようにしなさい」

 母はぬるいお茶を、一気に飲み干しそれを力強くテーブルに置いた。
 何かが吹っ切れたように、表情が晴れやかになっていた。

「ところで、昨晩はどこで泊まったの?」
 俺は飲んでいたお茶をブーって吹きそうになった。

「友達のところ……」
「ふーん」

 無事に帰って来たからそれで良し、としたのだろう。
 特に問い質したりしなかった。

 別に俺も疚しいことはないけども、やっぱり正直には言えない。
 母との問題は解決し、特にセイも父親も、何も言ってこなかったので、終わった事だと排除した。

 今一番気がかりなのは、ノゾミの事かもしれない。
 それからは期末が近付いてるから、ノゾミは俺の邪魔をしてはいけないと、俺に会いには来なかった。

 放課後になると、教室の入り口で覗いているんじゃないかとふと期待してしまう。

 俺も会いに行けばよかったんだろうが、三者面談があったり、今後の事をどうするか岐路に立たされ悩んでいるうちに、期末テストがどんどん近づいて、会いに行く余裕がなかった。

 タイミングが悪かった。

 そうしているうちに期末が始まり、それが終わるまでは会えず仕舞いになってしまった。

 ノゾミとの契約の期限まで、期末テストが始まったこの時点で残りあと2週間──
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