先輩、一億円で私と付き合って下さい!

 母はここの焼き菓子を購入しては、一緒に仕事してる看護師たちに配っていた。

 自分も好きだというのもあったが、控室に置いておくと、同僚たちにも好評で、忙しい合間のエネルギー補給や一息にもってこいだと、利用していた。

 そんな接点があったとは知らず、とても不思議な縁を感じた。

 志摩子は、のんびりとした口調で話をしながら、飲み物の用意をしてくれた。

 通されたリビングは、インテリア雑誌に載るようにおしゃれにコーディネートされている。
 部屋はシンプルでいて、それが計算されたような纏まり感があった。

 ソファーの前のローテーブルに、ミントの葉をちょこんと乗せたアイスティが置かれた。
 薦められたので、遠慮なく手にして飲めば、トロピカルな味がした。

 またそれをテーブルに置けば、そこには卓上カレンダーが置かれ7月31日の所に赤丸がついてあった。
 何の日だろう。

 俺がそれを見ていると、志摩子はさりげなく教えてくれた。

「その日はノゾミの誕生日なの」
「7月31日が誕生日なんですか」
 俺は確認する。

「天見さんは12月25日よね」

 なんでもお見通しだと言わんばかりに、志摩子は笑っていた。
 母が教えたのだろうが、一度聞いたら絶対に忘れないだろう。

 その日はイエス・キリストの誕生日でもあるのだから。
 こんな日に生まれたせいで、クリスマスと誕生日を一緒に祝って、プレゼントも重なるから、子供の頃は損した気分だった。
 大きくなるにつれ、どうでもよくなってきたけど、できるなら関係ない日がよかった。

 そんな事を言えば、志摩子は笑っていた。
「ノゾミも夏休みは友達に会えないから、祝って貰えなくて面白くないって子供の頃言ってたわ。そんな日に産んでごめんなさいって言ったら、それ以来言わなくなっちゃったけど」

「産む方は大変ですもんね」
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