先輩、一億円で私と付き合って下さい!
「母親にとって、子供の誕生日って案外、親が、生んだ日の事を思い出して大変さを振り返り、大きくなった我が子を喜ぶ日なのかもしれない。何歳になったというよりも、産んでから何年経ったっていつも思っちゃう。もうすぐまたあれから16年経つのね。早いわ」

 今も出産時の事を思い出しているのか、俺の向かいに座って微笑んでいた。
 その後、ピーピーとアラーム音がなると立ち上がり、キッチンの方でごそごそしていた。

 俺はその間、辺りを見回していた。
 棚の所に写真が飾ってあるのに気付くと、俺はすくっと立ち上がり、それを見に行く。

 そこには小さい頃のノゾミがユメと手を繋ぎ、両親に囲まれて、遊園地の乗り物を背景にした写真が飾られていた。
 いい写真だと俺は素直に思った。

 その同じ棚の所にノートサイズのスケッチブックが置かれている。
 それを興味深く見ていると、志摩子がサンドウィッチを乗せた皿を手にして現れた。

「それ、ノゾミのスケッチブックなの。見る?」
 志摩子は手にして、俺の前にそれを掲げた。

 俺は再び席に戻り、志摩子に勧められるまま、「いただきます」と、サンドウィッチを食べだした。
 外はこんがりとやけ、中はレタスもトマトもハムも入っていて、そこにとろっとチーズが溶けた、アツアツのホットサンドだった。
 これが美味しかった。

 それを食べながら、俺はノゾミのスケッチブックを見せられている。
 1ページ1ページ、志摩子が説明を挟みながらゆっくり捲っていた。

 それはノゾミがデザインしたケーキの絵だった。
 どれもおいしそうに、きれいに描けている。

 さすがイラストレーターの母の血を引いているだけ、上手い。
 父母のどちらの才能も貰っているのもすごい。

「食べたいケーキがあった?」
「どれもおいしそうです。絵も上手いけど、ちゃんと使う素材の事も考えて細かく書かれて、研究に打ち込む姿勢が違いますね」

「そうなのよ。だけど、ここ最近、デザインしてないの。お菓子作りもトーンダウンしたようになってるの。テレビのグルメ情報でケーキが出てきてもスルーしちゃって。昔は食い入るようにみてたのに」

 詳しい状況が分からなかったが、俺とセイの間で悩んでいたのかもしれない。

「ちょっと忙しかったんじゃないですか?」
 当たり障りのないように適当に答えていた。

 そんな時、やっとノゾミが帰ってきた。
< 136 / 165 >

この作品をシェア

pagetop