先輩、一億円で私と付き合って下さい!
「天見、一体どうしたんだ?」

 はっとしたその時、俺は立ちながら教室で皆からの視線を浴びていた。

 前を見れば、教科書を片手に持った先生と目が合った。

 きょとんとしている俺を見て、先生が困惑して、顔を歪めていた。

「早く答えを言いなさい」

 黒板に書かれた問題を指差し、解答を急かされた。

 その答えは、一度解いた事があり、全然難しくなかった。

 それを言えば、先生は「よくできた」と感心するように俺を褒めた。

 先生はそのまま授業を進め、俺は椅子に座った訳だが、いつも見るお馴染みの教室の光景ながら、なんだか既視感があって、不思議な感覚にとらわれた。

 黒板の上に掛かっていた時計は、もうすぐ三時になろうとしていた。

 俺はそれをじっと見つめる。

 時計の長い針が12を差した時、6時間目を終えるチャイムの音が流れ、この日の授業が全て終わった。

 これも毎日同じことを続けているが、この時ほど、アレッと感じた事がなかった。

 変に腹のあたりが疼くような、ムズムズとした気持ち悪さにとらわれ、それを感じていると突然フラッシュバックして、さっきの映像が横切るように流れて行った。

 俺、刺されたんだっけ?

 どうやら俺は眠気に襲われて、授業中に悪夢を見ていたようだった。

 それにしてもあまりにもリアルで、衝撃的だった。

 何かのお告げか、前兆か。

 その夢の事を考えていたら、ビジョンが二重になってずれて、最後はぼやけてあやふやになっていく。

 俺は思わずしっかりしろと、自分で頭を叩いてしまった。

 調子の悪い機械を叩いて直そうとする感じ。

 体が揺らつく、まるで熱い風呂から出てのぼせ、ふらふらしていた気分で、さ迷い歩いているような──

 午後は、集中力も切れて眠気が襲ってくるだけに、少し疲れていたのかもしれない。

 時間が過ぎていけば、夢の中の衝撃も和らいで、すっかり落ち着いたが、教室を見回すとどうも違和感がぬぐえなかった。

 妙に感覚だけが研ぎ澄まされて、過敏になっている感じ。

 だから、放課後、教室から出ようとして、担任に呼び止められると、すでに自分の中でそれを予期していたから、ついまたかと思ってしまった。
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