先輩、一億円で私と付き合って下さい!
「あの」
 ノゾミが話しかけた。

「なんだ」
「下駄箱があっちなので……」

 屋上からずっと手を繋いで、階段を下り廊下を歩いて来たが、考え事をしていたせいで、俺は手を繋いでいる事を忘れていた。

 まるでノゾミと俺が同化したように、違和感ない状態だった。
 昇降口の前で、ノゾミが繋いでいた手をそっと離した。

 恥ずかしそうにして、自分の靴が置いてある下駄箱へと向かっていく。
 その後姿を見ながら、またクスッと俺は笑いを漏らした。
 靴を履きかえた後も、ノゾミはもじもじとして俺を見つめ、俺の傍に来ていいものか逡巡していた。

「ほら、帰るぞ」

 俺が先に歩けば、ノゾミもつんのめりそうに後をついて来た。

 また手を繋ごうと俺が手を差し伸べようとしたその時、ノゾミはいきなりビューンと俺の横を横切って走っていってしまった。

 彼女が起こした風を少し遅れて俺は顔で受けていた。

「一体何なんだよ」

 前方を見ればスタスタスタとノゾミは正門を抜け、右に折れて姿が見えなくなった。
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