先輩、一億円で私と付き合って下さい!

 また置き去りにされてしまった。
 俺の中では一応いい雰囲気でいたのに、ノゾミはそれをも放棄して、俺から去って行った。

 一体そこに何があるんだ?──と、疑問が湧いた時、俺は正気に戻り、後を追いかけた。

 正門の向こう側は、車が走る広い道路に面し、それに沿って住宅や雑居ビルが立ち並び、その建物と道路の境にちょっと広めの歩道が挟まれている。

 ノゾミが駆けて行った方向を真っ直ぐ見れば、ノゾミはその先で誰かともめていた。
 ノゾミが相手の腕を引っ張り、無理やり引きずっていたから驚いた。

 ──あいつは誰だ?
 ノゾミとあまり背が変わらない中学生っぽい少年だった。

 一体何が起こっているのか、俺が訝しげな目つきで近づけば、ノゾミは焦りだし、少年を急かした。

「約束したでしょ。早く帰って」

 傍に居た少年を追い返そうと必死になっている。
 その少年は俺が近づいて来たのを見ると、体を強張らせて俺を睨み始めた。

「セイ君、お願い」

 ノゾミの声など耳に届いていないかのように、その『セイ君』と呼ばれた少年は、俺に敵意を持って鋭い目つきを投げかけた。

 その傍でノゾミは顔を青ざめ、セイの片腕を強く掴んだ。
 セイは何も言わず、双眸を固定させて挑むように俺を見つめていた。

「おい、どうした?」
 俺が近寄れば、セイはノゾミに掴まれていた手を払い、ノゾミの前に立ちはだかった。

「セイ君」
 ノゾミはおろおろとして、咄嗟に後ろからセイの着ていたシャツを鷲掴みにして引っ張る。

「何もしねぇよ。とりあえず、こいつと話をさせてくれ」

 幾分か落ち着いた声だったので、ノゾミは仕方なく掴んでいたシャツから手を離した。
 ノゾミが不安げに、様子を窺う中、セイは姿勢を正し、威厳を見せようと俺と張り合う格好になった。

 それはまるで恋人を取られた事を憎んでいる様子にも見える。
 まさかノゾミの元彼? それで三角関係に突入か?

 ノゾミが俺に三ヶ月付き合ってほしいと条件を出したのも、こいつと別れる口実を作るためだったのか?
 自分の中で筋道を立てて考えるも、それがどこか違和感だった。

 ノゾミは男と付き合ったことなどないと言っていた。

 それじゃ、こいつはもしかして一方的にノゾミを追いかけているストーカー的存在か?
 俺はこの状況がわからず、ノゾミとセイを交互に見つめる。
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