先輩、一億円で私と付き合って下さい!
「あの、この子は、その」
 ノゾミが説明しようとしたとき、セイがヤケクソに声を張り上げた。

「俺は弟だ!」
 それを聞いて、俺は腑に落ちた。なんだシスコンか。

「弟?」
「そうだ」

 よく見れば、ノゾミと同じような雰囲気がする。
 あか抜けてない、普通の少年。

 粋がろうとするも、少年のあどけない幼さが、どこか痛々しくも感じ、無理をしているのが伝わってくる。

 勢いをつけて自分の正体を明かした後は、目だけをぎょろりと向けて、俺を見ていた。
 俺を吟味して、姉のノゾミに相応しいかチェックしているのだろうか。

 ここは少しでも紳士的な態度を見せる方がいいと判断した俺は、微笑ましい姉弟愛を称賛しようと口角を少し上げて落ち着きを見せた。

「俺は、天見嶺だ。よろしくな」

 セイに向かって手を差し伸べれば、セイは肩を震わせ動揺し出した。

 体の中にある力を封じ込めるようにぐっと奥歯を噛みしめ、俺の差出した手をじっと見つめていた。

 そしてプイっと横を向いたかと思うと、踵を返して去ろうとした。

「セイ君!」
 ノゾミが声を掛けると、背中を向けたまま立ち止まり、

「わかってる。今日はごめん」
 素直にも謝り、そして再び歩いて行った。

 その先の角を曲がって姿が見えなくなったところで、ノゾミがもじもじとし出して、俺の様子を窺った。

「あの子、ほんとはとてもいい子です。でも一番難しい年頃だから……」
「ああ、あの年頃は確かに難しい。誰でも通る道だから、そのうち落ち着くさ。それに、真面目そうで、しっかりしてたし」

「本当にそう思います?」
「ああ、中々芯の強い感じがした。でも、今は思春期の真っ盛りだからな。反抗したくなったり、気持ちが尖ったりして、不安定気味だな。ああいうのは真面目故に思いつめるタイプなだけさ」

「あの子、今、色々と悩んでるみたいなんです」
「あの調子だと、その悩みの一つが俺にも係わってるんだろうな」

 シスコンを意味して、俺は冗談の一つとして笑ったが、ノゾミは下を向き、以外にも真剣にとらえていた。
 なんだか気まずくなってしまった。
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