先輩、一億円で私と付き合って下さい!
「とにかく、早くこれを食べようぜ」
 江藤はすでに手を出し、箱の中から一つを取り出していた。

 次々と手が伸びるから、俺も咄嗟に一つ確保した。
 あっという間に箱は空になり、口にしたものから「美味い」という言葉が漏れた。

 俺も食べたが、口の中でコクのあるチーズを感じ、そこに苺の甘さが溶け合って、それは素直に美味かった。
 特別何も言わなかったが、俺が全部平らげたのを見て、ノゾミはほっとしていた。

「それじゃ、私、失礼します」
「ノゾミちゃん、ありがとうね。またね」

 俺よりも江藤が先に声を掛け、そして周りの男子生徒も手を振ったりしていた。
 ノゾミは軽く頭を下げ、去っていく。

 その様子をクラスに居た女子達が、冷ややかに見ていた。
 一年生が、クラスでも目立つ男子生徒にちやほやされている姿を見るのは鬱陶しいし、面白くないだろう。

 だが、ノゾミはそれを得意げにするのでもなく、鼻にもかけず、ただおどおどとして無理をしてやってきている。
 ノゾミは相当の覚悟をもって必死になっているだけだ。

 それでも見る側からすれば羨ましいと思え、嫉妬の対象になってしまう。
 そのメカニズムが俺には非常に理解できるから、虚しさがこみ上げ、思わずため息をもらしてしまった。

「おい、なんだその態度は」
 早速、江藤に指摘された。

 勘違いとはいえ、こうなると江藤は隙を突くようにうるさくなるから困りものだった。

「天見、ノゾミちゃん、結構かわいいじゃないか。おどおどとしながら、俺たちの教室に入って、必死でお菓子を届けてさ。それで、俺たちが美味しいっていえば、素直に喜んで、それでいて恥ずかしそうにしてさ、ああいう子中々いないぜ」

 俺もしっかり聞いていたが、周りの女子も江藤の発言に耳を傾けているように思えた。

 俺がちらりと女子達を見れば、顔を逸らすも、燻った不満はそのままに、コソコソと固まって話しだすとノゾミの悪口に思えてならなかった。

 その不穏さが、前回のように虐められる要因に繋がりそうで、また俺の知らない所で呼び出されるのではないかと冷や冷やしてしまう。
 俺が危惧していると、江藤が強く呼んだ。
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