先輩、一億円で私と付き合って下さい!
「ねえ、お腹空かない。セイ君はもう昼ごはん食べた?」

 セイは首を横に振っていた。
 そういえば、昼飯がまだだった。

「じゃあ、なんか食べに行くか?」
 俺が言うと、セイはまた俺を睨んだ。

「昼飯なんてどうでもいい。天見嶺、俺と勝負しろ」
「はっ? 勝負?」

「そうだ」
「一体何の勝負だよ」

「俺とお前のどちらが優れているかだ」
「お前、そんなに悔しいのか」

 ノゾミを他の男にとられて、釈然としない男のヤキモチ。
 それを指摘すれば、セイはさらに逆上した。

「うるさい!」
 その後は語彙があまりないのか、言いたい事を言えずに口をわなわなさせて震えていた。

「セイ君、落ち着いて。天見先輩はセイ君が思っているような人じゃない。とてもいい人」
 今にもとびかかりそうなセイの腕を取り、ノゾミがなだめた。

「こんな男のどこがいいんだよ。なんでノゾミはこいつが好きなんだ?」
「えっ、それは、その、あの」

 今度はノゾミがうろたえた。
 俺の顔をちらりと見れば、また真っ赤になっていく。

「俺を納得させるために無理してるだけじゃないのか」

 セイの言い方も気になるが、ノゾミはそれを遮るように吠えた。

「好きだから好きなの! 私は何と言おうと天見先輩が大好きなの!」

 感情が爆発し、言い切った後は息をぜいぜいと切らしていた。
 そんなに力んで言わなくても、通りすがりの人たちがじろじろと俺たちを見ていた。

「おい、ノゾミ、落ち着け」
「あっ」

 ノゾミは恥ずかしさのあまり急に萎んでいくように見えた。
 しかしノゾミの本気さはセイに伝わり、そしてこの俺にも届いていた。

「そこまで言い切るのなら、俺が見極めてやる。そうじゃないと、俺はあの時の感情に飲み込まれそうだ」
 セイの目は鋭さを見せ、俺に挑んできた。

 俺自身、本当は大した男ではないのはわかっている。
 ノゾミにここまで惚れられてるのも、面映ゆい。

「だったら、俺がノゾミに相応しい男かどうか判断してくれ」

 俺の言葉に静かに耳を傾け、セイは「ついて来い」と歩き出した。
 俺たちはその後を追う。
 何が始まるのか、とにかくセイの挑戦を受けて立つつもりでいた。
 しかし、この時俺の腹の虫がグーッと鳴って騒いでいた。
 まずは何か食べたい。
 しかし、それを口に出せないほど、セイは速足でツカツカと前を突き進んでいた。
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