先輩、一億円で私と付き合って下さい!

 電車に乗り、賑やかな市内へと繰り出す。
 ノゾミに連れられて行った先には、すでにセイが待っていた。

 駅の構内の人通りの慌ただしさの中、学ランの胸元のボタンを一つ外した首元から白いシャツを覗かせ、大きめのスポーツバッグを肩に掛けて、通行人の邪魔にならないように壁際で立っていた。

 世の中に不満を持ってるようなふてくされた顔。
 だがそれが、とても子供っぽくて痛い奴に見えるところが、あか抜けてないと思わせる。

 そのくせ背伸びをして粋がっている。
 心の内が複雑で、精一杯反抗しようと抗っているようにも見えた。

 箍(たが)が外れば、切れやすく暴走し、この年代によくある危険な分子を秘めている。
 例えるなら、苛立ちを抱えた狂気を隠し持ったような少年。

 自分が弱いから、武器に頼って、気に入らないものを切り付けそうに、虚勢を張る。

『セイ君にはどうか気を付けて下さい』

 ノゾミが言ったその言葉は、理由もなく刃向うその性格を意味しているのだろう。
 俺が近づけば、セイの目はますます鋭さを帯びて行った。

「セイ君、待った?」
「ああ」

 嫌味っぽく返事したその矛先は、俺に向けられていた。
 おいおいと思いつつ、俺はとりあえず愛想よく挨拶した。

「よぉっ」
 セイは俺をこの上なく睨んでいる。

「お前が俺に会いたいっていったんじゃなかったのか?」
「ふん」
 そっぽを向きやがった。

「セイ君」
 ノゾミが窘めると、セイは顔を歪め下を向く。

 心なしか体が震えていた。
 感情を押し込め、区切りがついたところで、セイはまた俺と向き合った。

「お前の事を知るべきだと思った」
「おい、仮にも俺は年上だぞ。いきなりお前はないだろう」

「何が年上だ。俺より早く生まれただけだろうが」
「だからそれを年上というんだが」

「ふん」
 またそっぽを向いた。
 ノゾミはハラハラしてやり取りを見ていた。
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