ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
一分一秒、まるで時を縫い付けるかのようにやけに大きく響く秒針が煩い。
部屋に戻って5時間が経ち、時計は19時を指していた。

外からは既に花火の音が聞こえていた。音がしたかと思えば部屋が一瞬照らされる。
どうやらこの部屋からも花火を見ることはできたらしい。
しかし、今ここでベランダに出て花火を見てしまうと負ける気がして、ソファーの上で小さな三角形になっていた。


「………遅い、なぁ」


夕方からとは言ったものの、流石に遅すぎだ。
心配で逸る気持ちを抑え込み、じっとそのまま帰りを待ってはいたがそろそろ限界だった。

一緒に行こうと言ってくれた声を思い出す。
今頃誘拐犯さんは何をしているのだろうか。間に合わなくて、急いでいるのだろうか。
それとも


「…嫌になっちゃったかな」


言ってみて自分で傷を負った。
考えてみればそれは不思議でもなんともないことだ。見ず知らずの女子高生を家に入れて今日まで一緒に過ごしてくれたことだけでもありえないことだというのに、私は一体あの人にこれ以上何を期待していたというのだろう。

何度も我儘を言って困らせた。
ひとりが嫌だと知っていて、騙す様な真似をした。
踏み込まないと決めたくせして、自分の欲望のままに傷つけた。

嫌いになれる理由などいくらでもあった。
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