ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
「…明日は、何する?俺明日休みだからさ」

「誘拐犯さんが勝ったから、誘拐犯さんが決めていいよ」

私の提案に誘拐犯さんは随分と悩んだようだった。
私がいつも我儘に付き合わせてしまっている所為で、それに慣れてしまったのか、それとも自分が決めてしまうことに引け目でも感じてしまっているのだろうか。そうだとすればそれはとても悲しい事だと思い、人ひとり分開いた距離はそのままに手を伸ばした。

優しく触れるには想いが強すぎて、上手く歌うことができなくて、思ったように絵を描くこともできなくて、それでもどうしたって何か伝えたいから言葉という道具がある。
この人と過ごして学んだこと。


「何でもいいよ、明日は誘拐犯さんが行きたいとこ、全部ついてくよ。したいこと何でもしようよ」

手に触れる。私の手よりあたたかいから離すことができない。離したくない。

「欲しがって、欲張って、もっと望んでいいんだよ。重ねていいよ、違くてもいいから、一緒にいるときだけは私を大切な人だと思ってよ」

「え、」

「私にくれてばっかりじゃ、疲れちゃうでしょ?」
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