ひだまりのようなその形に幸福論と名前をつけたなら
一瞬、何を言われたのか分からないというような顔をされてしまった。
私の一世一代のプロポーズをこんな顔で受け取るとは…とショックを受けていると、ぽつりと誘拐犯さんが言葉を零した。


「…明日は、二人で家でゆっくりしたい」

今度は私がぽかんとする番だった。私の顔を見て誘拐犯さんの顔がゆるりと柔らかくなる。それに何だかほっとしてしまった。

「君はさ、いつも外に出たがるから。若さにはついていけないよ」

「え、今まで嫌だったの!?」

「どうだと思う?」

「えー……」

悪戯っ子のような笑顔が答えだった。
たとえ私を見ていなくとも、誘拐犯さんの中にいるのが私じゃなくとも、今こうして目の前で笑っていてくれるならそれでいいと思えた。


「…浴衣、可愛いね」

「今更?遅いよ、もー」


都会の隅に光った線香花火は、いつまでも落ちない。

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