僕の知らない、いつかの君へ
◇2◇悩める魚たち
◇
「で、なんなんだよー昨日のアレ」
前の席の中岡が振り返って、朝礼ギリギリに登校してきた俺にむかって言った。
アレっていうのはたぶん昨日の七瀬さんとのことだと思う。しつこくメッセージを送ってきた中岡に、〈教えねー〉とだけ返事をして、あとはスルーしていたからだ。
「なんだよ、教えないって。慶太が七瀬さんと仲良いなんて、聞いてないし、俺」
小声でぼやく中岡に「別に、仲良くはないけどな」と返す。
「じゃあなんで一緒に帰るんだよーなんでー」
わざとらしくねちっこい中岡の絡みは一度始まると本人が満足するまで終わらない。
めんどくさい奴。だけどちょっと面白くなってつい笑ってしまう俺。
「なんかストーカーみたいのに後つけられてるらしくてさ、俺はボディーガード的な?」
「ボディーガード?なんで慶太なんだよ?俺だっていいじゃんそこは」
「そんなの知らねえよ。七瀬さんに聞けよ」
俺が突き放すと中岡がぷうっと頬を膨らまして見せる。
教室の窓際には目立つ女子のグループが固まっていて、その中心にはやっぱり七瀬さんがいる。
「七瀬さん、今日も可愛いよな」
中岡がしみじみといった感じで呟いた。
確かに相変わらず可愛い七瀬さんだけど、昨日まで見ていた七瀬さんとはなんだか違う人に見える。
全然してないように見えて実はバッチリなメイクとか、無造作に見えて計算されたフワフワの髪の毛とか、短めのスカートとか紺色のハイソックスとか、ちょっとだけ大きめのカーディガンの袖口から、ちょっとだけ出した指先とか。
「……俺はなんか、違うかな」