S級イケメン王子に、甘々に溺愛されています。
「嘘だろ……」
「ホントだよ。たまたま鉢合わせた時、撫子様は慌てて立ち去ろうとしてて……声をかけない理由はどうしてなんだろ、って思ったんだ。でも今、戸澤くんの話聞いて、わかっちゃったよ」
戸澤くんが唇を噛む。
あーっ、と声を出して、目元を腕で隠した。
「やば。嬉しくて泣きそうなんだけど」
戸澤くんがピアノを弾き続けている理由は、きっと撫子様のため。
どこか悲しげな音色も、撫子様を想って弾いていたからなのかな。
「後悔しても遅いって話だよな。俺みたいのがそばにいたって、お姫様を幸せにしてやれるわけねーから」
本当の気持ちを言えなかった弱さを隠すように、戸澤くんは無理に笑って見せた。
「あんた、本当にそれでいいの?」
そんな中、火神さんは戸澤くんにハッキリとした口調で問いかけた。
「なに。俺にどーしろっつーの?お姫様が決めたことだろ」
「わたしには、撫子様の本心で婚約を決めたとは思えない」
来る日も来る日も戸澤くんを見つめていた撫子様を思うと、それは私も同感だった。