寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


 そのソフィアという伯爵家の女性は国王の姪にあたり、降嫁して五年が経つ。
 ラーラとも仲が良く、テオとは子供の頃から親しい。
 本来、王族の女性が降嫁する際は他国に嫁ぐのだが、ソフィアは自らが見初めた伯爵家の長男との結婚を望み、実現させたのだ。
 その気の強さと頭の良さで、今では伯爵家の影の家長とも言われている。
 そんな女性から

「もう、セレナ様に教えて差し上げることはありません。ミノワスターの歴史も現状も、私が持っている知識はすべて出し尽くしました」

と言われるほど、セレナは王太子妃としての資質を備えていた。
 王太子妃としての作法や責任と義務についても、ランナケルドで身に着けた事とそれほど変わらない。
 それどころか、王室の女性なら誰もが習得していなければならない刺繍の腕前は誰にも負けないほどだ。
 編み物や裁縫、そして絵の才能も非凡で、何人もの名が知れた画商がセレナの作品を扱いたいと申し出るが、絵を描く時間をとれないと言って断っている。
 結婚後、セレナに困った事はないのだが、これまでのように騎士団の鍛錬に交じったり、王城の料理人たちと和気あいあいと料理する機会がなくなったことは残念だと思っている。
 大勢の中でひとつの目標に向かって体を動かす事が好きなのだ。
 けれど、もともと、クラリーチェの代わりに女王となろうと考えて騎士団に交じって体を鍛えていたセレナは、状況が変わりその必要もなくなった事に、ホッとしている部分もある。
 今はそれよりもテオのために、刺繍をしたり、体に良い食事を考えたり。

 これまでしたくてたまらなかった事をしたいのだ。


< 149 / 284 >

この作品をシェア

pagetop