寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「料理長がセレナ様がお好きなシナモンロールを作りましたよ。最近、セレナ様は刺繍に夢中で厨房に来られないと言って寂しがってますよ」
「そう言えばそうね。でも、これが出来上がれば時間もできるから、またお料理を教えてもらわなきゃ。殿下が好きなチキンの香草焼きも作りたいし……」

 セレナは手にしていたハンカチをテーブルに置き、体を伸ばした。

「まあ、本当にお上手ですね。テオ殿下のブルースターは何度も刺繍されていてお上手ですけどガーベラも惚れ惚れするほどの出来栄えですね」

 ラーラの言葉に、セレナは気まずそうに笑った。
 これまでガーベラの刺繍をしたことはあまりない。
 テオに贈りたいがためにブルースターの刺繍は何度もしていたのだが、クラリーチェに代わって女王になれればと願っていたセレナは、クラリーチェのためにガーベラの刺繍をする気にはなれなかったのだ。
 それも今では切ない思い出だ。
 今はクラリーチェの幸せを願いながら針を刺している。

「そう言えば、ジェラルド陛下がセレナ様に贈られたネックレスはクラリーチェ様とお揃いだそうですね? ミノワスターの宝石商から買われたと聞きました」

 ラーラが、思いだしたように口を開く。

「宝石が有名なミノワスターですが、中でもダイヤモンドは質の高さで有名なんですよ。クラリーチェ様にも喜んでいただけるといいですね」
「そうね。お姉様は色白でお綺麗だから、きっと似合うと思うわ」

 クラリーチェとお揃いの宝石は初めてだが、セレナはクラリーチェと違って日焼けした肌とほどよく筋肉がついた体。
 同じペンダントでも、自分よりもクラリーチェの方が断然似合うだろうと、セレナは苦笑した。
 そして料理長自慢のシナモンロールをパクリとほおばり、今日中にガーベラの刺繍を終えようと考える。
 自分だけが苦しい想いをしていると思っていたが、クラリーチェにもセレナ以上の苦しさと病弱な自分を持て余すやりきれなさがあったはずだ。
 国を思うために親としての感情を後回しにしてセレナを構わなかった両親も同様だ。
 せめてワインのお礼だけでもしなければと思いハンカチに刺繍を続けてきたセレナは、両親と姉を思い出す。
 まだわだかまりは残っているが、来月会えれば今よりももっと距離が縮まるかもしれない。
 そうあって欲しいと、強く願った。

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