寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない



 クラリーチェのために水路を広げたのだろうと、信じ込み、拗ねていた。
 しかし、いざミノワスターでの生活が始まると、国王ですら豊かな水に喜び、湯あみを楽しみすぎてケガをしている。
 女官や侍女たちも、仕事の合間の休憩でお茶のおかわりが存分にできると笑う。
 視察で訪れた学校では、子供たちがどんなに服を汚しても洗濯が何度でもできると言って校庭を駆けまわり、絵の具で服や体を汚しても平気だった。
 気兼ねなく遊べる事がどれほど楽しいものか、ようやく知った子供たちの笑顔は輝いていた。
 そして、王宮で働く者たちは皆、王宮専属のシェフが用意するまかないを食べるのだが、水路が広げられてからずっと、温かいスープが用意されている。
 それらを知るにつれ、セレナはミノワスターの国民たちが乗り越えてきた苦労を想い、胸を痛めた。
 そして、その現実を知っていたジェラルドが、セレナのために水路を広げてくれたのではないかと思うようになっていた。
 人を見る目があるジェラルドのことだ、カルロがどれほど優秀だとしても、それに負けないほどテオも優秀だとわかっていたはずだ。
 今では目覚めた狼と言われ、一目置かれるほど公務に励むテオの真の姿に気づかなかったわけがない。
 カルロでなくとも、テオならクラリーチェの夫として彼女を支えられたはずなのだ。

「お父様、あの、水路を広げていただき感謝しています。ミノワスターの国民に代わってお礼申し上げます」

 セレナは深く頭を下げた。
 ジェラルドがセレナのためにしたのだと口に出さないのなら、自分もそれに従おうと、セレナは決めた。

「陛下も王妃様も、もちろん私も、楽しく幸せに暮らしております。安心してください」

 セレナとジェラルドは、しばらくの間見つめ合った。
 傍らで様子を見守るテオは、セレナが父親の想いを察したのだと気づいた。

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