寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない

 けれどそれは、、諦めに近い感情だ。
 どれだけ望んでも、簡単に現実を変えることはできないとわかっている。
 それでもやはり、セレナはテオが好きなのだ。
 離宮近くの川辺で会った、十歳の時からずっと、好きなのだ。
 しかし、テオはクラリーチェの婚約者。
 そして、自分はカルロの婚約者だ。
 テオへの恋心を抱くことは許されないと、わかっている。
 わかっていても、テオへの想いを断ち切ることができずにいる。
 カルロと結婚してミノワスターの王太子妃になるその日まで、少しでも長く一緒にいたい。
 そんな想いばかりが募っていく。
 けれど、一緒にいる時間が増えるにつれて、クラリーチェへの罪悪感も大きくなる。
 本来なら、テオの隣にいるのはクラリーチェであり、一緒に市を楽しんだり、子供たちと乗馬の練習をしたり、勉強を教えたりするのは、クラリーチェの役目だ。
 テオとふたりでランナケルドを盛り立てていくために、クラリーチェはテオとふたりで過ごす時間を増やしていかなければならない。
 クラリーチェの体調が優れないのを理由に、セレナがテオとの時間を過ごしているが、彼女はそれが嬉しくてたまらないのだ。

 セレナは、そんな自分が嫌でたまらない。

 体調のせいで思うように生きられないクラリーチェの苦しみを考えれば、彼女の婚約者であるテオに恋するなんて、とんでもないことだ。
 それに、セレナをかわいがり、大人の余裕とでもいうべき包容力で誠実に接してくれるカルロを裏切る恋心。
 そう、セレナのテオへの想いは、誰にも気づかれてはいけない、不実な想いなのだ。

< 45 / 284 >

この作品をシェア

pagetop