寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない



 人混みをかきわけ、テオがセレナを連れてきたのは、通りの奥の店だった。
 地面に敷かれている三メートル四方の紫のカーペットの四隅には、ミノワスター王家の紋章が刺繍されていて、店の両側には、ミノワスターの騎士たちが数人立ち、店を見守っている。
 周囲の露店よりも広いスペースを使い、高価だとわかる分厚い生地で作られたテントの中で売られているのは、色とりどりの絹糸とたくさんの布だった。
 麻や綿、そして光沢のあるシルクまでもが並んでいた。
 宝石や鉱石だけでなく、繊維でも有名なミノワスターならではの品揃えだ。
 くるくる巻かれている布が何段も積まれ、その奥にひとりの女性がにこやかに立っていた。
 セレナより少し年上に見えるその女性は、セレナたちに近づくと、人当たりのよさそうな笑顔を見せる。

「テオ王子、お待ちしてました。生地と糸をたくさん用意しましたけど、どうでしょう?」
「十分だ。これだけたくさんの量を運ぶのは大変だっただろう」
「いえ、騎士の方々が店から運んでくださいましたので、大丈夫です」

 濃いブラウンの長い髪を無造作にひとつにまとめ、裾がくるぶしまであるゆったりとしたワンピースを着ているその女性は、艶やかで健康的な肌が印象的でかわいらしい。
 言葉を交わすふたりは親しげだ。
 テオが彼女を見つめるテオの表情も優しい。
 並べられている生地をテオに差し出す彼女に「無理はするなよ。時々休みながらのんびりやれ」と声をかける横顔にもテオと彼女の親しさが見て取れる。


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