涙が落ちたあの日から
*1ヶ月の瞬き
私は都内にある大きな病院に来ていた。
診察のない土曜日の午後。
大きなロビーには、人はチラホラと数えるほどしか居なかった。
ロビーの奥へ進むと、そちらが入院病棟になるのか、お見舞いに来ている人がたくさん座っていた。
その先の長い廊下を渡ると、すぐ横にあるエレベーターの前に、1人の女性が立っていた。
「るい……」
その人は私に気付き、名前を呼んだ。
「……お母さん」
エレベーターに乗ると、お母さんは「ごめんね、ごめんね」と謝りながら、何度も頭を下げた。
「……」
何年ぶりだろう。
思っていた以上に年をとっている、白髪交じりの髪。
なんだかものすごく疲れているように見える、痩せた母の姿があった。
母を憎む気持ちはもう無くなっていた。
今まで、何をしても無くならなかったこの気持ち。
いつも卑屈になって、「両親のせいだ! 母のせいだ!」そう言って憎んできた。
それが今、こんなふうに思えるなんて……。
「……もう、いいよ……」
私は母に声をかけた。