エリート上司の過保護な独占愛
(手籠めって……久しぶりに聞いた)

 絵美の言葉がたとえお世辞だとしても、うれしい。

「ありがとうございます。そう言ってくれるのは、絵美さんだけですけど」

「何言ってるの? 沙衣ったら自分の魅力をもっと理解しないと。昨日だって、慎吾の会社の子に声かけられてたじゃないの」

 たしかそんなこともあった。沙衣のなかでは、裕貴が助けてくれたことで、すでに記憶から抜け落ちていたのだが。

「それに片想い、片想いって言ってるけど、最初から両想いの恋なんて、この世に存在しないのよ」

 絵美にビシッと人差し指を突きつけられて、思わずのけぞった。

 たしかに絵美の言うことはもっともだ。けれどその恋が叶う人と叶わない人にはやっぱり差がある。彼氏いない歴=年齢の沙衣にはどうやったら、そっち側の人間になれるのか、まったくわからなかった。

「でも私は……」

「また卑屈発言! 謙遜は美徳だけど、卑屈は禁止! そんなこと言ってたら、天瀬課長が海外に行くまで何もできないよ」

「え? ……海外って」

「あ……しまった」

 絵美は口元をおさえているが、沙衣はしっかりと聞いてしまった。前のめりに質問する沙衣に、絵美は口にしてしまった以上仕方なく話をする。

「これ、実は慎吾から聞いた話なんだけど、課長、海外転勤希望しているんだって」

 海外赴任となると、出世コースに乗るためには必須だ。喜ばしいことではあるけれど、沙衣にとっては寝耳に水、青天の霹靂、とにかく予想だにしなかったことに驚き動揺した。
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