エリート上司の過保護な独占愛
「そうなんですか……」

 今まで三年間、遠くから見ているだけで満足だった。仕事が成功したときに控えめだけど喜んでいる姿や、真剣に顧客や部下に耳を傾ける姿。時折、声をかけられるだけで満足だった。けれど、それがなくなる。

 考えただけでも、胸の中の大切なものがなくなっていくのがわかる。

「どうしよう……」

 思わず口から洩れた言葉。それが沙衣の本音だった。しかし今の沙衣ではどうしようもない。

 うろたえる沙衣を見て、絵美がひとつため息をついた。

「どうしよう……じゃないよね? どうにかしなきゃ、じゃないの? 何もせずに指をくわえてみているつもり?」

 これまでずっとそうしてきた。それは裕貴がいつも変わらず同じ場所にいたからだ。しかし、そこからいなくなってしまう。

「私、そんなの嫌です」

 沙衣の顔は必死だった。しかしすぐに弱気の虫が顔を出した。

「でも、どうやったいいのか、全然わからないんです。勉強には教科書があるし、仕事にはマニュアルがあるのに、恋愛だけは経験だけでしか学べないなんて……それじゃ時間がありません」

 今からこれまでほとんどなかった経験値を、すぐに上げることなんてできそうにない。

「まぁ、確かにそうね。あ、でもそれならいいものがあるわよ」

 絵美が立ち上がり、本棚の前で屈んだ。

「たしか、この辺にっと……あった、あった」

 もどってきて、沙衣の前に一冊の本を差し出した。

「〝本当の恋を手に入れる方法〟ですか?」

「これ、参考にしてみるのはどう? 教科書やマニュアルがあればできるんでしょ?」

 たしかにそんなことを言った。けれど、本当に役に立つのだろうか。
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