エリート上司の過保護な独占愛
 駅から歩いて五分ほど。普段はサラリーマンやOLの多い駅前だったが、今日はチワワを散歩するサングラスをかけた女性や、小さな子を連れた家族連れなどの姿も多く、カフェやCD販売、雑貨屋など複合施設と化した書店は多くの人で賑わっていた。

 (まずは……えーっと純文学はどこだったっけ? 絵美さん、純文学なんか読むんだ。なんだか意外だな)

 そもそも沙衣は絵美が活字を読んでいるのを見たのは、仕事の資料か雑誌ぐらいしかみたことがなった。不思議に思ったが、頼まれたものを探そうと目的の本棚を目指す。

 しかしその途中で、テキスタイルの本が目に入る。沙衣はそこで足をとめてその本を手にとった。

「これ、素敵……」

 職業柄、こういったものを見るとすぐに手にとってしまう。

 沙衣自身は原料部なので直接デザインに関わることはないが、目にするだけでも楽しい。

 いつか部署異動になって、こういった知識が役に立つこともあるかもしれない。そんなことを思いながら、パラパラとめくり内容を確認すると、それを手にもってやっと本来の目的の場所である純文学の本が置いてある本棚へ移動した。

 聞いていた出版社の棚の前で、上から順番に探していく。あ、い、う、え、お……と目で追って、目当ての作家のところに絵美が言っていた本があった。

「よかった、みつかった」

 手に取ったそれは、ライトな文体で綴られている純文学でとても読みやすそうだ。絵美が読み終わったら、借りてみようと思いレジに向かった。
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