エリート上司の過保護な独占愛
「笑いごとでも大袈裟でもなんでもないわよ。才色兼備でなんでもできる私が唯一できないのが、料理よ。沙衣だって知ってるでしょ」

「苦手だって言ってましたよね?」

「苦手ってレベルじゃないのよ。おにぎりもまともに握れないのよ。すぐにボロボロになっちゃうの。もう買った方が断然おいしいのよ」

 そこまでとは思わなかった沙衣が、ふと疑問に思う。

「絵美さん、ご結婚されてからはどうするつもりなんですか?」

 その言葉に絵美が凍りつく。

「そうよ……それが問題なのよ。今まではひとりだったからよかったものの、結婚となると料理は避けて通れないわ。慎吾には『超絶に下手』とだけは伝えてあるんだけど、きっとここまでとは思ってないはず」

 たしかにおにぎりが握れないというのは相当だ。

「でも、絵美さんは何でも器用にこなすじゃないですか。だからきっと、練習して慣れればすぐに上達しますよ」

「ほんとに?」

 沙衣が力強くうなずくと、絵美が一枚のチラシを出してきた。

「じゃあ、これ一緒に通ってくれる?」

「へ?」

 それは駅前にあるクッキングスクールの入会案内だった。

「私ね、ひとりだと絶対に途中で行かなくなる自信があるの。それに周りに知らな人ばかりだと迷惑かけちゃうで
しょ? だから沙衣が一緒にいてフォローしてほしいの」

「料理教室ですか」

 チラシをじっくりみると、赤のギンガムチェックのエプロンをつけた講師が、包丁の使い方から教えている。基礎コースは季節にあった家庭料理。

 メインからデザートまで作りテーブルコーディネートもレッスンの内に入っているようだ。
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