御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
だが始はそんな男ではない。
鳥飼は彼という男を知らないから、そんなことを言うのだ。
(始さんは怒ったりなんかしない……はずなのに……)
いつだってニコニコと笑って、まるで花の間を飛び回る蝶のように軽やかで。
人の気持ちの裏の裏を読んで、気を使ってばかりの男だ。
だから自分の気持ちを他人に見せない。
女心をくすぐるために、妬いている振りだってできる男だ。
だからこれも、『恋愛を楽しむための嫉妬ごっこ』に違いない。
そう、頭ではわかっているのに、燃えるような目で鳥飼を見つめる始から目が逸らせない。
「だから、蓮杖さんは、なにも悪くないので」
「――知ってるよ」
「ん?」
鳥飼は低い声で『知ってる』と答えた始の返答を聞いて、一瞬怪訝そうな表情を浮かべたが、
「あーそうか……」とつぶやいた後、何事ともなかったかのように早穂子を振り返り、
「で、大丈夫?」と首をかしげた。
「え? あ……うん」
なにをもって大丈夫というのかわからないが、とりあえずこのまま三人で廊下に突っ立っているのが、いいことだとは思わないのは分かる。