風薫る
はしゃぐ瑞穂に辟易する。


う、ううううるさいな。ごめんね間違えて。


ごめんと謝れば、うん大丈夫気にしないそれより黒瀬君とのこと吐こうか、と息継ぎなしにいい笑顔で言われて怖かった。


ぶわっ、と鳥肌が立つ。


何とか目が泳ぐのを抑止してふて寝した。


絶対絶対教えるもんか。何のネタにされるか分からない。


「嫌だよ」

「えー」


教えてよう、と人差し指で肩を突つかれる。


先ほど手をのせた場所に狙いが定まっているのは、もちろんわざとだ。

さっきもべしべし同じところを攻撃された。


本当にいい性格をしている。


思わず反応してしまって、跳ねた肩に連なって顔を上げた先に、限りなくにやけている意地悪そうな顔があって、すぐさま伏せた。


……駄目だ。あれは駄目だ。


微笑しているかのように見える口元は、その実、愉悦に歪められているのを隠したにすぎない。


細められた目は笑ってなどいない。

楽しい獲物を探し出した獣の瞳のごとく、ぎらぎらと怪しく揺らめいている。


あれは駄目。顔を上げちゃ駄目……!


迫力満点の友人に体力をごっそり持っていかれて、疲れに襲われた。
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