風薫る
「いろいろ?」


首を傾げる黒瀬君に視線が下がる。


冷たさが体温を下げてくれないかなあとお冷やを両手で持ってみたけれど、やっぱり変わらない。


ああもう、落ち着いて私。


「……いろいろ、です」


観念して頷いて、お冷やをこぼしそうになりつつちびりと飲む。


カランと氷が鳴った。


「気になるんだけど、教えてくれる気はない?」

「……あんまり」


ぱたぱたと手であおげば、黒瀬君がなんだか微笑ましげだ。


「あんまりないんだ」


じゃあ聞かない。


ふわりと笑った黒瀬君がメニューに視線をおいてくれたのは、きっと、私が緊張していることに気づいてくれているから。

目が合う度に照れていることの意味を察してくれたから。


前に言ってた。


相手が緊張してると分かるよねって。

相手が無言苦手だと分かるよねって。


私相手なら大丈夫って言ってくれたのを覚えている。


口下手なのなんか今さらだもんね。


私のペースで行こう。黒瀬君はきっと待ってくれるもの。


……よし。


「黒瀬君」

「ん?」


呼びかけに顔を上げた黒瀬君と目が合って、どうしても、心臓がうるさく跳ねた。
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