風薫る
「えええ!?」


叫んだ声が大きすぎる。クラス中が何事かとこちらを向いてしまった。


は、恥ずかしい……!


赤い顔を隠そうと俯いたけれど、全く収まる気配がない。


「え!? 嘘、何、黒瀬君と知り合い!?」

「いや、だから……知り合いというか、本を取ってくれた人だって」


何をそんなに驚いているんだろう。


よく分からなくて首を傾げると、ゆっさゆっさ激しく肩を揺すられて気分が悪くなった。


え、わ。わ……! 私、激しく揺れると酔うのに……!


うう、気持ち悪い……ご飯が、卵焼きがお腹で暴れている。


「食事中に人を揺するのはいけないと思うよ……!」

「あ、ごめん」


何とか言うと、やっと放してくれた。


……よかった、助かった。


「でも、あのカッコよくて優しい黒瀬君に助けてもらったなんて羨ましい。ほんと羨ましい」


安心していたら、羨望の眼差しを向けられて。


「いいなー、いいなあああ」

「…………」


困った。やっぱり言うべきじゃなかっただろうか。


瑞穂によると、黒瀬君は優しい雰囲気の男子として人気らしい。


そういう話に疎い私は、むしろ黒瀬君を知っている瑞穂に驚いたけれど。
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