Sweet Love
「結構、混んでますね」



 エスカレーターも、エレベーターも、どちらも多くの人々で混み合っていた。



 ――エレベーターなんて…あの人の多さの中に入ったら、絶対息苦しくなる。



「まあ、日曜だからな」



 あたしは、先輩と一緒になって館内の案内板を眺めた。案内板によると、映画館は“9F”と表示されている。



「エスカレーターで行くか」

「そうですね」



 あたしと誠二先輩は、エスカレーターで移動し、“9F”へと目指して行った。


 エスカレーターで“9F”まで上ると、フロアの雰囲気がガラリと変わる。薄暗い中、床からカラフルな光を放っていた。


 誠二先輩は真剣な顔で、上映案内を見上げる。



「何観ますか? 先輩」

「裕子さんは何か観たいのある?」



 あたしも一緒になって、上映案内を見上げる。



「なんでもいいですよ。先輩の観たい映画でいいです!」

「じゃあ、SF」



 ――待って。何故にSF?



「先輩。やっぱりわたし、」

「よし、チケット買いに行こう」



 やっぱり違うのが観たいと言おうとしたのに、あたしの声が届かなかったのか、誠二先輩はさっさとチケット売り場へ向かってしまう。



 彼は、…観る気満々だ。

 SF観て没頭する気なんだ。先輩は。



 SFなんて観たって(内容によるけど)、手を繋ぐような、夢みたいなシチュエーションになるにはきっと程遠い。あたしの甘々な妄想が一気に崩れ去った瞬間だった。
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