Sweet Love
室内に足を踏み入れると、前方に朱菜ちゃんの後ろ姿があった。
わたしの気配に気付いた朱菜ちゃんはゆっくりとこちらに振り返る。こちらに向かって一歩進み、彼女はわたしを見て言った。
「来てくれたんですね」
朱菜ちゃんは、にこりと笑いながら前に指を絡ませている。このような状況下で、あまりにも穏やか過ぎる。彼女の心が読み取れない。
「とりあえず、座りましょうか」
わたしは首だけで頷き、内心で警戒しながらも中ほどまで進む。椅子を引いて腰を下ろすと、彼女はその向かい側に座った。この間のときと、全く同じ位置だった。わたしは、自分から話を切り出す。
「話って、…萩原くんのことでしょう?」
彼女は笑みを崩さず、頷いた。
「……石田さんが悪いんですよ」
でも、先ほどとは明らかに違う表情に見える。目が全く笑っていない。不敵な笑みだった。
「何で…わたしが悪いの?」
「貴方が、いつも翔くんの隣にいるから」
「…だって、友達だもん」
別にわたしは、彼とやましいことなんて何ひとつしていない。クラスが一緒で、偶然席が後ろで、時々会話する程度であって…ただそれだけだ。
「石田さんが翔くんの前に現れなければ、上手くいっていたのに」
途端、朱菜ちゃんの顔から笑顔が消えた。
そんなことを言われても困る。引き合わせたのは、わたしのせいではない。学校側が決定したことだ。
「知っていますよね? 今わたし達がどういう状況になっているのか」
「……うん、…知ってる」
――今から数十分前。わたしはつい先ほどまで、萩原くんと彼女の話をしていた。
「…最近、朱菜ちゃんとうまくやれてる?」
「実は今、花咲とは距離置いているんだ」
「…えっ、どうして?」
――もしかして、わたしのせいで二人の関係が崩れてしまったのだろうか。
「これは、…俺の問題だから」
それきり、彼は何も言おうとはしなかった。きっと話したくないのかも知れない。
時に、少し前にも、彼は同じ言葉を口にしていた。問題の本質がどういうものなのか、気にはなるけれど、部外者であるわたしが彼に訊く権利はない。
わたしは、それ以上深く追及しようとはしなかった。
「そっか…」
その話は進むこともなく、終わっていた。
わたしの気配に気付いた朱菜ちゃんはゆっくりとこちらに振り返る。こちらに向かって一歩進み、彼女はわたしを見て言った。
「来てくれたんですね」
朱菜ちゃんは、にこりと笑いながら前に指を絡ませている。このような状況下で、あまりにも穏やか過ぎる。彼女の心が読み取れない。
「とりあえず、座りましょうか」
わたしは首だけで頷き、内心で警戒しながらも中ほどまで進む。椅子を引いて腰を下ろすと、彼女はその向かい側に座った。この間のときと、全く同じ位置だった。わたしは、自分から話を切り出す。
「話って、…萩原くんのことでしょう?」
彼女は笑みを崩さず、頷いた。
「……石田さんが悪いんですよ」
でも、先ほどとは明らかに違う表情に見える。目が全く笑っていない。不敵な笑みだった。
「何で…わたしが悪いの?」
「貴方が、いつも翔くんの隣にいるから」
「…だって、友達だもん」
別にわたしは、彼とやましいことなんて何ひとつしていない。クラスが一緒で、偶然席が後ろで、時々会話する程度であって…ただそれだけだ。
「石田さんが翔くんの前に現れなければ、上手くいっていたのに」
途端、朱菜ちゃんの顔から笑顔が消えた。
そんなことを言われても困る。引き合わせたのは、わたしのせいではない。学校側が決定したことだ。
「知っていますよね? 今わたし達がどういう状況になっているのか」
「……うん、…知ってる」
――今から数十分前。わたしはつい先ほどまで、萩原くんと彼女の話をしていた。
「…最近、朱菜ちゃんとうまくやれてる?」
「実は今、花咲とは距離置いているんだ」
「…えっ、どうして?」
――もしかして、わたしのせいで二人の関係が崩れてしまったのだろうか。
「これは、…俺の問題だから」
それきり、彼は何も言おうとはしなかった。きっと話したくないのかも知れない。
時に、少し前にも、彼は同じ言葉を口にしていた。問題の本質がどういうものなのか、気にはなるけれど、部外者であるわたしが彼に訊く権利はない。
わたしは、それ以上深く追及しようとはしなかった。
「そっか…」
その話は進むこともなく、終わっていた。