Sweet Love
「距離、…置いてるんでしょう?」

「そうですよ。…まあ、翔くんから言い出したことなんですけど」

「…その理由が、わたしと関係してるの?」



「はい」と、朱菜ちゃんはきっぱりと頷いた。



「これは俺自身の問題だからってそれの一点張りで、わたしには何も教えてくれないんです。だからきっとこれは、石田さんと何かあったのではないかと思って」

「わたし、……萩原くんとはただの友達だから。それに、何もしてないよ」

「でも好きなんでしょ?」



 朱菜ちゃんは、わたしを非難するような目付きでこちらを睨んだ。



「…うん」



 わたしは思わず彼女から視線を逸らす。下を向いて彼女の言葉をじっと待っていると、突然彼女が椅子から立ち上がった。


 顔を上げ、視線を戻す。彼女はこちらに向かって歩み寄ってくる。わたしは目を見張った。


 わたしの座っている横で立ち止まった彼女は、氷のような冷たい目でこちらを見下ろしている。


 何かされてしまうのではないかと思ったときには、もう彼女の右手が高く上がっていた。その右手は、わたしの頬に振り落とされる。次に、強い痛みが走った。一瞬の出来事に、頭が真っ白になった。



「いた…っ」

「…許せない、…許せない、…許せない」



 彼女の様子は明らかに豹変していた。そのあとも何度か左頬を叩かれ、その強さのあまりにわたしは椅子から転げ落ちる。



「や、やめ…」

「うるさいっ! あんたなんか、…あんたなんか現れなければ、わたしは幸せだったのに…っ」



 癇癪声で怒鳴りつけ、彼女は唇を噛み締める。朱菜ちゃんは泣きながらわたしの上に乗っかった。ずしんと重みを感じながら、手の平で何度も打ち付けられた。


 打たれた瞬間、頬はピリピリと痛み、手が離れると頬の感覚がない。


 その代わりにわたしは、何度も「やめて」と「ごめんなさい」を繰り返した。


 恐怖心が勝って、この言葉ばかりが浮かぶ。


 考える余裕が無いのだ。


 でも、わたしがどんなに謝ったとしても、決して許されることではない。それはわかっていた。
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