ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく



その光景はゆっくりと頭から離れていって、私は静かに地面から右手を離した。だけど左手はまだ詩月と繋がったまま。

たくさん、たくさん言葉を選んだ。

なにを言えばいいんだろう。
なにを言えば正解なんだろう。

いくら考えても分からなかったから、私はぎゅっと繋がっている手を強く握って言ってあげたかったことを正直に口にした。


「詩月のせいじゃなかった。詩月のせいじゃなかったんだよ」

2回繰り返した。

火事は起きてしまった。そのせいで詩月は両親を失った。それは変えられない事実。

だけど詩月が息苦しく感じていたはずの家が見せてくれた残留思念。最後の、最後の記憶。

どうしてそうなったのか。

その時、詩月のお父さんとお母さんはなにを想っていたのか。誰のことを考えていたのか。

それを私たちに教えてくれた。


「詩月のお父さんとお母さんは変わろうとしてたね」

「………」

「ちゃんと反省もしてた。ちゃんと向き合おうとしてた」

「………」

「愛されていた。最後まで」

「……っ」

詩月はまた大粒の涙を流した。

でもそれは罪の涙じゃない。記憶を取り戻して真実を知って。これから前を向いて歩いていこうとする涙の色をしていた。
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