君が思い出になる前に…
「ねぇ、入ってもいい?」
ドアの外から絵美の声がした。
「あ、あぁ、いいよ…」
入っちゃダメなんて言えないし…。
部屋の明かりは点けてない。
「祐ちゃん…」
暗がりに佇むおれを見て、絵美も察しがついたんだろう。
「ごめん…。今、顔みられたくないんだ…」
「どうして?」
心配そうに絵美が尋ねた。
「ちょっと悲しくって…、泣いた…」
浜辺での光景がまた頭をよぎる。
「そぉ…」
すると暗がりの中、絵美が背中からそっと抱きしめてくれた。
絵美の優しさに、また涙が出てきた。
恥ずかしいけど、こらえる事ができなかった。
「なんにも言わなくていいよ…。祐ちゃんの胸ん中にしまっておいて…」
なんという子なんだ…。
何があったのか、一番心配なはずなのに。心配でいても立ってもいられなくって、家にきたんだろ?それなのに、何も聞かないでいてくれる…。
背中にくっつく絵美が暖かい…。
海風にしばらく晒されていたせいか、体が冷えているようだ。絵美の体温を感じる。
そして無言の時間が過ぎていった。


「ありがとう…、もう落ち着いた…」
背中から廻された絵美の手を握り、やっと声を出せた。
「よかった…」
絵美はおれの背中に頬をすり寄せて、そう言った。
「あ、祐ちゃんの心臓の音…」
「当たり前だろ、生きてるんだから」
クスっと笑ってしまった。
「あったか~い」
本当に優しい子。

こんなタイミングで、ふと頭をよぎった。
なんで前の元宮祐作は、絵美を冷たくあしらってたんだ?
それがわからない…。
こんなにいい子なのに…。
おれの記憶とは当然異なっているし。

「ねぇ…、なんで前の祐作は、絵美に素っ気なかったの?付き合ってたんだろ?」
「そっか…。過去の記憶と違うんだもんね。知りたい?」

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