君が思い出になる前に…
背中に頬をつけたまま、絵美が言った。「うん…」
「祐ちゃんね、好きな子がいるの…」
「え!?」
「だけど、ずっと言えないでいるんだよね…。きっと凄く内気なんだね。でも、好きな子いるのに、あたしが好きって言ったときは、案外あっさり付き合ってくれたのよ…、変でしょ?」
「うん、なんで?」絵美の指とおれの指を絡めながら、背中にいる優しい子に聞いた。
「つまり、あたしはデモンストレーションだったんじゃないかな?本当に好きな人は、ちゃんと別にいたの…。その子の為の予行演習なんでしょ、きっと…」
「な、なんて奴なんだ!」
怒りが込み上げてきた。
「あなたでしょ…」サラッと言う絵美。「あ、そっか…。ち、違う!違う!おれじゃない!」
そうは言ってもおれなのか…。ややこしい。
「ばか…」
絵美が笑った。
「好きな人って誰?絵美、知ってるの?」
「うん。誰だと思う?」
「さぁ~?」
「加賀紀子さんよ」「うっそ!!」
今日二回目の度肝を抜かれた。
おれ、いやあいつ。一応あいつにしておこう。ややこしいから。
あいつ、告白されておきながら、知らんふりしてたって言うの?笑ってごまかしたって?自分も好きなくせに?
なんて馬鹿な奴なんだ…。
呆れた…。
情けない。

「どうしたの?そんなに驚いた?」
絵美が後ろからおれの顔を覗き込んだ。「うん、びっくりしたよ」
点と点が結びついた気がした。
さっき、紀子の言ってた事は絵美には言えない。
たとえ、おれ自身の歴史じゃなくても…。
15年間、祐作も好きと言えないまま、過ごしてたなんて…。そんな恋ってあるんだろうか…。
高校も大学も会社までもずっと一緒だったのに…。


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