君が思い出になる前に…
行方不明
 遅くなったからと、母さんが絵美を車で送ってくれた。
話し込んでたら、9時を回っていた。母さんに言われ初めて気づいた。

絵美はここに来てる事をちゃんと言ってきたから大丈夫、って言っていたが、家の人だって、きっと心配してるだろうな。
あやまってきてあげると母さんが言ってくれてた…。
迷惑をかけてしまったな。絵美にも母さんにも…。


絵美が帰ったあと、ひとりになった部屋で、色々考えてみた。

紀子は祐作に好きだと伝えたが、相手にされなかったと言っていた。
この世界にいた祐作は、告白されたにもかかわらず、すごい内気で、自分の気持ちを素直に表現する事もできなかった。らしい…。
紀子の事が好きだったにもかかわらず、ずっと言えないでいた。
お互いすれ違ったまま、延々と15年も過ごしてしまうなんて。
でも、おれがこの世界に来たことで、紀子の、祐作という人間との結婚は、無くなってしまった事になるんだ。
この世界に今いるおれは、紀子とは将来関係しない存在だから。それは紛れもない事実な訳で。
紀子が大学を出て商社に勤めたという話しも、元の世界で人伝いに聞いた話しだし。

絵美とは、中学3年の時、わずか数ヶ月間付き合っていたのは事実だけど、15年後にまで影響を受けるような付き合いはしていなかった。
あの15年前、誤解がもとで絵美と別れた事がおれにとっての、間違いだったんだろうか…。

このまま、紀子をほおっておいていいのかな?
本当におれには、責任のない事と、やり過ごしていいものなのだろうか…。
もしも、このおれが紀子の言う軌跡、つまり高校も大学も就職までもが一緒だとしたなら、紀子と15年後に結婚することになるんだろうか。でも、おれならもっと早くに紀子とちゃんと向き合ってあげてたと思う。
そんな15年も待たせるような事は絶対しなかったと思う。

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